【先祖に顔向け信託】先祖代々の資産を相続から守る信託の活用法

速読術を身につけて調子に乗っています。司法書士の城田です。
不動産をたくさん持ってそれを活用しておられる地主の皆様。
不動産の相続に関して納税資金や遺留分減殺による資産の分散をいかに防ぐかでお悩みではありませんか?
相続税は現金による納税が出来なかった場合には、物納の形をとらざるを得ません。
それに加えて相続人が複数いる場合、遺留分の減殺という形で、仮に遺言を欠いていたとしても、
その通りに財産承継が行われるかの保証はありません。
この記事では、このような問題に対して、民事信託を活用し、
先祖代々受け継いだ土地などの不動産を、自分の思い通りの形で承継させる方法を解説いたします。
この記事の目次
先祖代々の不動産を相続すること
資産を承継するのも苦労があります
私は奈良出身で、代々奈良に住んでいるいわゆる旧家です。
我が家は市街化調整区域の農地を少しばかり所有しているにとどまりますが、
ご近所様には、駅の付近に土地を持っていてその賃貸収益で年間結構な額の収入がある方がチラホラおられます。
父が休日に楽しそうに畑を耕している姿を見ると、「まぁ、不労所得がなくても違った形の満足があるのかな」と思いますが、
心の片隅ではうらやましい限りです。
実際、地方都市にはこのような方が結構居られるのではないでしょうか?
大都市の市街地の話は少し事情が変わるかもしれませんが、地方に行けばどこでも事情はさほど変わらないでしょう。
そのような不動産を持っておられる方をうらやましいと思う反面、
この仕事をしていますとその苦労も垣間見ることがあります。
先祖代々の土地をいかに下の世代に承継させていくべきか?それも、税制面や法律面での制約がある中でです。
これは持っておられる方にしかわからない苦労だと思います。
実際問題として、代々引き継いできた土地を自分の世代で他人に売らなければならないという事になれば、
その悔しさや口惜しさ、自責の念は推して知るべしという事になります。
そういった不安やプレッシャーを解消させてくれる一つの方法が民事信託の活用なのです。
遺言書いただけでは避けることが出来ないリスク
そういった地主さんの中には遺言を書いてあるので大丈夫だと思ってらっしゃる方が結構な割合で居られます。
確かに、一昔前までであれば家族の繋がりも強く、遺言があれば最終的にはその意思に従って承継がなされて来たかも知れません。
しかし、実際には「全財産を長男の○○に相続させる。」という遺言を書いていたとしてもその通りには行かなくなってきている現状があります。
遺留分という言葉をご存知の方も多いかもしれません。これは、配偶者や子が相続人となる場合には、皆平等に持つ法律上の権利です。
遺留分を持つ相続人は、遺言中にどのように書かれていたとしても、その相続人が持つ法定相続分(配偶者なら2分の1、子なら1/2×兄弟の数)
の半分の相続権を主張できる権利の事を遺留分として民法に規定されています。
一昔前までは「家督相続」の制度の名残として、長男がその家の財産を引き継ぐという形で承継がなされてきました。
これは、兄弟がすぐ近くに住んでいて、家族間の繋がりや絆といったものがまだまだあった時代の話です。
ですので、全財産を長男に相続させる旨の遺言を書いたとしても、特に次男からの遺留分減殺請求がなされなかったのだと思います。
しかし、現代は家族の在り方自体もどんどん変わってきています。
兄弟が遠く離れた地で生活していて、年に1度顔を合わせるくらいという事も珍しくありません。
そうなってきますと、長男家族がいかに親の介護を頑張っていたとしても、その姿をリアルに目の当たりにすることもないのです。
自分にも権利があるからという理由で遺留分減殺請求をするケースというのは実務をしている中で、増えてきているなという印象です。
遺留分減殺請求の統計は見つけることが出来ませんでしたが、遺産分割事件の事件数の推移は司法統計上以下のとおりです。
平成21年・・・13,505件
平成22年・・・13,597件
平成23年・・・14,029件
平成24年・・・15,283件
平成25年・・・15,195件
平成26年・・・15,261件
相続に関する裁判が年々増えていることが確認できると思います。
遺留分減殺請求がされると、不動産の名義が分散してしまう可能性はかなり高くなってしまうでしょう。
民事信託と保険を活用して三方よしの財産承継
遺留分資金と納税資金
そもそも、遺留分減殺請求によって不動産の名義が分散してしまうという現象はなぜ起こるのでしょうか?
それは、遺留分減殺請求がなされた時に現金でその遺留分額を支払う事が出来ないことが多いからです。
相続財産が総額で4億円あり、その内訳として不動産が2億円、現金1億円、有価証券等が1億円だったとしましょう。
子が二人いて配偶者もご存命であれば、子の遺留分は5000万円です。
この状況であれば、仮に二人の子のうち一人が遺留分減殺請求をしたとしても、
現金が1億円ありますので5000万円を現金で支払う事が出来ます。
しかし、同じケースで4億円のうち不動産の価値が3億5000万円を超えている場合、
現金だけでは遺留分減殺請求に耐えることが出来ず、不動産を差し出すしかありません。
そうなると、不動産の名義は分散してしまうことになるのです。
資産が分散した場合、周りから見るとその家が弱ってしまったと取られるかもしれません。
実際、私の地元ではそのような話がされていることがあります。
また、この場合に納税資金という観点も必要になります。
遺留分減殺請求は分散してしまうことはありますが、自分の子の名義であることに変わりはありません。
しかし、納税となりますと物納として不動産を差し出すか、不動産を売って納税資金を捻出するかを選ばなければなりません。
そうなってしまえば、不動産の名義は他人にわたることになります。
先祖代々の土地であろうが例外ではないわけです。
受益者連続型信託
先祖代々の土地を長男へ承継させるという目的を達成するため、受益者連続型信託をお勧めいたします。
通常の遺言であれば、自分の相続人は指定できますがその次の相続人(孫の代)を指定することは出来ません。
受益者連続型信託ならば信託開始から30年経過後の承継人まで「今」指定することが出来ます。
ですので、自分の死後長男が不動産を取得し、長男の死後はその長男が不動産を取得するという事まで決めることが出来ます。
こうすることで、自身がもしも認知症になったとしても不動産の管理を息子に任せる事も出来ます。
受益者連続は長いスパンで走る契約ですので、受託者は少し工夫がいるでしょうが、さほど複雑な仕掛けは必要ありません。
そして、肝心の遺留分や納税資金に関しては別途現金を信託し、資産状況に応じて生命保険契約をすることで解決できます。
死亡時に現金が捻出できますので、遺留分にも納税にも耐えることができるだけの契約をすればよいわけです。
こうすることにより、財産承継に悩まされる時間から解放され、健やかな人生を過ごすことが出来ます。
悩み事やストレスが大きければ大きいほど、それこそ認知症などの病の原因になりかねません。
その悩みから解放された結果、認知症にならなかったから信託までする必要がなかったのでは?というのは結果論です。
財産を守ること自体もお非常に大切だと思いますが、私は悩みから解放される喜びこそ価値があると考えています。
まとめ
長男であれ次男であれ、長女であれ次女であれ、自分の財産を決めた人に確実に承継してほしいという願いはだれしもあると思います。
しかし、法制度上それを阻む制度があることは変えようがありません。
そういった中でその願いを現実にするのが我々専門家の仕事だと感じます。
民事信託と生命保険を使うことによって、遺留分の減殺請求による財産分散のリスクを予防することが出来ます。
しかし、民事信託を手掛ける専門家はまだまだ数が少ないのも現状です。
そのような中でこの記事を見て頂けた皆様にはこの機会を逃さずに活用して頂きたいと思います。