
どうも、司法書士の城田です。
ここ最近朝の情報番組などで立て続けに民事信託の特集が組まれていたり、民事信託が話題になる機会が増えているように感じます。
そういった中で、民事信託は専門家報酬も高額になるため、富裕層にとってメリットはあるが、普通のご家庭の相続にて活用するにはハードルが高いようなイメージがついている気がします。
しかし、決してそんなことはございません!
この記事では、ごく普通の家庭にとっても非常にメリットが多い「実家信託」について、その活用法とメリットをお伝えしたいと思います。
この記事の目次
実家信託とは?
実家信託っていったい何なのか?
まず、実家信託についてのご説明が必要かと思います。
核家族化が常態化している昨今、実家を離れて暮らしている方も多いです。
中には実家にはすでに高齢の父母しか住んでいないというような方も多いのではないでしょうか?
高齢者だけで生活していくのは、先々の事を考えればリスクがあります。最終的には施設に入所という事も考えなければなりませんよね?
しかし、施設の入居費用というのは結構高額になりますので誰も住んでいない実家を売却する必要が出てくることが予想されます。
実際問題として、誰も住んでいない不動産の各種の税金等を払っていくというのは経済的とは言えません。
その時に両親の認知能力が低下していたらどういうことになるでしょう?
実は認知能力が低下した状態ですと、不動産の売買契約が出来ないのです。
売買契約は売主の「売ります」と買主の「買います」という意思表示が合致してはじめて成立するのですが、その「売ります」の意思表示を言動が怪しい高齢者が表示したとしたら・・・買主は怖くて買えないですよね?
そこで、両親が元気なうちに子供に実家を信託し、仮に両親の認知能力が低下したとしても子供の権限で実家を売却できるようにしておきましょうというのが実家信託です。
実家信託を活用すべきごく普通の家庭?
民事信託自体は先ほども申し上げた通り、一般的に収益不動産などを所有する、俗に地主と呼ばれる富裕層向けのものという印象が強いと思います。
実際に色々なところで信託に関するセミナーが行われていますが、対象は富裕層であることが圧倒的に多いです。
では、実家信託をすべきごく普通の家庭とはどのような過程なのでしょうか?上でも書かせて頂きましたが、両親が二人だけで実家に住んでいて、しかも子供は仕事などの関係上近くに住んでいない家庭がそれにあたります。
このようなご家庭は今、たくさんあると思います。皆様は年に何回ご両親に会われますか?と聞かれたらどうでしょう?正直、年に1回か2回しか会う機会がないですという方が多いことと思います。
これ自体は仕事もあり、家族もある方にとって仕方のないことで、責らることではないと考えます。しかし、世話をする人がいないという事実が覆るわけではありません。
そうなればこれからの時代、施設の入居は普通に考えなければならない選択肢なのです。
そこで、施設入居資金を現金で用意することが出来ず居住不動産を売却する必要がある家庭が実家信託をすべき家庭という事になります。
決して富裕層の為だけの制度ではないのです。
実家を信託することによる効果
信託認知症対策
認知症などで認知能力が低下した場合、不動産の売買契約が出来なくなるというのは上で書いた通りですが、では、認知症になった場合にその不動産を売却するにはどうすればよいのでしょうか?
「売ります」という意思表示が自分でできないとなると代わりに誰かにしてもらうしかありません。そこで、具体的に言いますと、実家の売却の為に両親の成年後見人を選任する必要が出てくるのです。
成年後見開始の申し立てをする場合、後見人候補者を予めこちらで指定することは出来ます。しかし、選任の権限はあくまで家庭裁判所にありますのでこちらの立てた候補者が認められるとも限りませんし、候補者が遠隔地に住んでいるとなるとかなり望みが薄いと言わざるを得ません。
そもそも申し立てから選任まで半年ほどかかることも普通にありますので、買主がそこまで待ってくれるとも限りませんし、売却それ自体にも裁判所の許可が必要になります。
こうなってくると、施設の入所資金の目途が立たなくなってしまい、大きなリスクとなるわけです。
成年後見制度はあくまで本人の「権利保護」を第一に考えた制度です。
権利保護の観点からすると不動産の売却は、本人の財産を換価しにくい不動産から流出しやすい金銭に変えるという事になり問題があるという結論になります。
ですので売却それ自体にも裁判所の許可が必要なのです。その売買契約が本人の権利保護にとって本当に必要かどうかを見極める必要があるからです。
施設入居の費用であれば売却自体が否定されることはないとは思いますが時間がかかるというのは非常に厄介です。
それに対して、民事信託契約を意思のはっきりしている間に交わしておけば、本人が認知症になったとしても子の権限で機動的に財産の処分から相続対策も可能になります。
金銭面でのメリットは?
成年後見人が選任されると財産の管理や処分が硬直化するというのは分かって頂けたと思います。
では、信託をせずにそういったリスクを回避する方法はないのかというとないわけではありません。
その方法とは生前贈与を使ってする方法です。生前贈与で予め財産を子に贈与しておけば親が認知症になっても子の権限で不動産を処分することが出来ます。
そもそも贈与によってこの財産になっているのですから当然のことといえば当然のことです。
では、生前贈与をする方法と信託する方法ではどのような違いがあるでしょう?
実はこの両者では費用面でかなり大きな違いが生じます。
贈与の場合、子が名実ともに不動産の所有者となります。そうなりますとまず考えなくてはならないのは不動産取得税が課税されるという事です。
不動産取得税は取得した人が支払う義務を負い、取得不動産につきその不動産評価額(国が予め決めている額で売買金額ではない)の建物については3%、土地については1.5%が課税されます。
次に不動産を取得すると登記をする必要が生じます。登記をする場合登録免許税という税金を支払う必要がありますが、贈与によって取得する場合はこれまた不動産評価額の2%を納めなくてはなりません。
これに対して民事信託を活用した場合、不動産取得税は課税されません。子は不動産を管理・運用・処分のために取得するにとどまりますので実質的な所有者は代わっていないからです。
そして、登録免許税については信託した場合でも信託の登記をしなければなりませんので必要になってきます。しかし、その税率は不動産評価額の0.4%と贈与に比べると大幅にお安くなります。
この税金の差額を仮に評価額が1000万円の土地と建物であった場合として比べると以下のとおりです。
- 贈与の場合不動産取得税につき45万円、登録免許税につき40万円 合計85万円
- 信託の場合不動産取得税につき0円、登録免許税につき8万円 合計8万円
これを比べるとそこそこの節税効果です。しかし、信託契約の組成は専門家報酬が高いため、登記と契約書の作成で報酬部分がおおよそ50万円程になります。
それに対して贈与をした場合、専門家報酬は登記手続きの代理のみですので6万円~8万円くらいになろうかと思います。
そうなってきますと、節税効果はそこそこあっても最終的には20万円程度の差しかないように思われるかもしれません。
ところが、この不動産というのは最終的に売りに出すことになるわけですから話は少し違ってまいります。
不動産を売却した場合、譲渡所得税が課税されることになるのです。要するに不動産の取得に要した費用(買った当時の価格)を売却による所得から引いた収益に関して所得税を課税しますよという事です。
その税率は取得後5年以内に売る場合はおよそ41%、五年以上保有後に売る場合はおよそ22%とかなり高額となっています。
この不動産取得税には控除の規定があり、自己の居住していた不動産を売却した場合に関しては売却益の3000万円までは課税しませんよという決まりとなっています。
贈与の場合、実家は一旦子が取得してしまいます。贈与税は相続時精算課税という制度を使えば課税されることはありませんが、子は実家には住んでいませんので売却した場合、自己が居住していた不動産の売却には当たりません。
しかも無償で取得していますので売却額そのものが収益となります。(厳密には売却額の95%が収益とみなされます。)
ですので、贈与により取得後五年以内に売却した場合は、仮に2000万円で売れたとしたなら1900万円につき41%のほどの額が税金として持っていかれます。
これに対して信託で対応した場合、売却する権限は子にありますが実質の所有者は親のままです。という事はその売却は自己が居住する不動産の売却となるわけです。
そうなりますと売却益の3000万円までは課税されませんので、売却額が2000万円であるなら課税はされません。
まとめ
民事信託は節税の効果はないという意見をよく耳にします。確かに相続税や贈与税については節税の効果は薄いと思います。ただ、上手に活用すれば流通税や所得税の節税にはなります。
最後に不動産譲渡所得税によりどの程度違いが出るかを金額で示させて頂きます。
売却額が2000万円であったとすると
- 贈与で取得後5年以上経過後に売却なら400万円以上の譲渡所得税
- 贈与で取得後5年以内に売却なら800万円弱の譲渡所得税
- 信託した場合なら譲渡所得税は非課税
不動産取得税と登録免許税も合わせると最大で800万円以上の差額が出ます。
これであれば多少専門家報酬が高くてもご納得いただけるのではないでしょうか?このように信託を上手に活用することで財産を守ることが出来ます。もしも自分にも当てはまるかもしれないと考える方がおられましたら、ご相談ください。