【まだ間に合う】専門家が相続対策を早めにする事を勧める理由 後篇

どうも、司法書士城田です。
シリーズものとして続けてきましたこのテーマですが、今回で完結編となります。
相続に関する対策を今すぐ始めていただきたいという思いで書いてきましたが、
書けば書くほどスピードが重要であることを僕自身が再確認させられます。
今回は前回、前々回の総決算となりますので、ご参考になればと思います。
関連記事 【まだ間に合う】専門家が相続対策を早めにする事を勧める理由 前篇
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相続対策の天敵、成年後見制度とは?
最近よく成年後見という言葉を耳にするのでは
ないでしょうか?
一体どのような制度なのか簡単に説明いたします。
人間というのは歳を追うごとに認知能力が低下していきがちです。
若いときであれば出来た判断がだんだん出来なくなってきます。
そうなってくるとどういった事が起きるかと言いますと、
悪い人たちが認知能力の低下した老人たちの財産を食い物にするために、
あれやこれやの手で物を買わせたり、不要なリフォーム契約を結んだりするわけです。
オレオレ詐欺なんかは犯罪ですから、逮捕されるリスクを冒してまでやる人は根っからのやくざ者でしょう。
しかし、物を売ること自体は犯罪ではありません。
認知能力が怪しくなっている老人に対して、明らかに不必要なものを売りつけたとしても、
当の本人が買うと言っているのであればそれを止めようがありません。
何に価値を感じるかということについては個人の自由であるべきだからです。
しかし、そんなことを繰り返していると、その老人の財産はあっという間に丸裸にされ、
路頭に迷ってしまいます。
そういった事を防止するために、「事理弁識を欠く常況」にある人の四親等内の親族等は、
後見開始申し立てという申立を家庭裁判所に対して請求することが出来るのです。
後見開始申し立てがされますと、家庭裁判所は後見人という人を選任します。
後見人には誰がなるかと言いますと、一般的には親族がなるか弁護士や司法書士といった資格者がなる事が多いです。
後見人が選任されますと、仮におじいちゃんおばあちゃんが全く必要性のない高額商品を購入してしまったとしても、
後見人がその契約を取り消すことが出来るのです。
そもそも民法では、契約などの意思表示は意思の合致がないと成立しないと決められているのです。
しかし、認知症の老人には、そのものが欲しいという意思が存在しないと考えるのです。
そうなると、そもそも契約は成立していないはずなのですが、そういった不完全な契約を防ぐ手立ての一つとして、
法律の中に、こういった人には意思能力がありませんよという事を明文化することで、
買主と売主の取引の安全を確保しようというのが本来の趣旨です。
実際、自分の親が悪徳シロアリ業者に財産をすべて持ち逃げされる事を想像すると非常に気分が悪いですよね。
親の財産を当てにするのは良くない事なのかもしれませんが、あるに越したことはありませんし、
正義感が多少ある人であれば、根本的にその卑劣さに嫌悪感を示さざるを得ません。
成年後見が開始するとどうなる?
このように述べると、とても良い制度のように感じるのが人情ですが、
実はこの制度に泣かされる人も世の中にはたくさんいるのです。
それは実は相続人である配偶者や子供です。
「お前さっきは親の財産を守るから子供は安心と言ったじゃないか!」
と声を荒げるのは少し待っていただきたいです。
確かに、成年後見制度は認知症にかかった親の財産を守ってくれます。
成年後見人になる事で、日用品の購入などの例外を除いて全ての契約行為が出来ないのだから当然です。
ここで非常に厄介なのは「全ての」契約が出来ないところです。
この記事の前篇や中篇で幾つかの相続対策をご紹介いたしました。
生命保険を活用することや不動産を活用する方法などです。
そういった対策はもちろん、本人が保険契約をしたり不動産の売買契約をしたりしなければなりません。
しかし、成年被後見人は全ての契約について有効な意思表示が出来ません。
つまり、有効な相続対策を実行することが出来ないのです。
勘のいい方は「じゃあ、せっかく後見人を選んだんだから後見人が代わりに契約したらいいじゃないか?」
と考えたかもしれません。
確かに、成年後見人には成年被後見人を代理することが出来るのですが、
後見人の財産を保護する行為以外は出来ないのです。
不動産を買ったり、保険契約をしたりすることは後見人の財産を目減りさせるリスクが伴うという事で、許されていません。
こうなってしまうと、後見人の財産は塩漬け状態に陥ってしまいます。
下手をすると、相続税を支払うための現金(納税資金)を用意することが出来ずに、
先祖代々の土地を売り払ってしまわなければならないという事態に陥りかねません。
私がこのシリーズでしつこく「急げ!」と言っていた理由がこれです。
親がまだ生きていたとしても、気がしっかりしていなければ相続対策という意味では最早時すでに遅しという事になってしまうのです。
また、成年被後見人になってしまいますと、会社の取締役にもなることができません。
現在、何かしらの事業をしておられる場合で、取締役になっている方について、
後見開始の審判がなされますと、取締役の欠格自由として退任することになっております。
もちろん、株主としての意思表示もできませんから、一人株主の会社にあっては非常に混乱をきたすことになります。
その株主としての議決権の行使は後見人がすることができますが、成年後見人は法律の専門家が就任することが多いため、
経営判断という意味では最善策をとれるかどうかはわかりません。
そもそも、株主総会においてどういった判断をすることが本人の財産の保護につながるのかというのは、
非常に難しい問題です。
こういったことから、その動きは非常に遅いものとなり、それによって会社の存続をも危うくさせてしまいかねません。
最後に
今回のシリーズを全編通じて読んでいただいた方には、
いかに相続において生前準備が大切かという事はわかっていただけたかと思います。
上記のような諸々の問題を成年後見制度は孕んでいます。
そのようなことになる前に、意思のしっかりしているうちから、今後の事を考えておく事は重要です。
というよりは、考えるだけでは足りず、実行することが求められます。
相続財産というものはその遺伝子の功績です。
決して誰か一人のものではないのです。
「私は一代でこの財産を築いたぞ!」という方もおられるでしょうが、
それはいつ花が咲いたかという話で、球根の時期も含めて先人から脈々と受け継がれているのです。
あなたの代で花咲いたというだけの事で、感謝しなければならないのは同じだと僕は思います。
だからこそ、出来る事はしてあげないとご先祖様と同じ墓に入りにくいのではないでしょうか?
少なくとも、私がかかわった人には、そのような思いをしてほしくはありません。