【危険】中小企業に潜む承継リスク

日本にはおおよそ、190万社の株式会社が存在するというデータがあります。
これらの会社の中には、資産の所有を目的とする会社や、すでに活動していない会社も含まれるとは思います。
しかし、それを差し引いて考えてもとてつもない数だと思います。
最近では徐々に事業の承継も進んできているかと存じますが、事業自体を承継しているが、株式はまだ承継できていない会社もまだまだあるのが現状です。
超高齢化社会の到来によって、経営者の高齢化も進んでいる中で、もしも仮に経営者が認知症になった場合、会社の経営は非常に困難を伴うことになります。
今回の記事では、会社の承継に潜む様々なリスクについて皆様に知っていただきたいと思います。
この記事の目次
承継を先送りにすることで様々なリスクが生じる
株式の分散
そもそも相続によって会社の株主が分散している場合や、節税対策によってあえて分散させている会社という会社があります。
会社の株式を分散させるという事については非常に大きなリスクがあると思います。
仮に会社の株式が分散していたとしても、普段の営業活動では何ら支障がなく、リスクも顕在化しません。
しかし、いざ、筆頭株主が認知症になったり死亡した場合はリスクが顕在化します。
会社のオーナーが認知症になった場合、株主としての意思表示(議決権の行使など)が出来なくなってしまいます。
そういった場合、他の株主が誰であるかや、何株所有しているかによって会社の支配権がオーナー一族外の人になってしまう事もあります。
また、オーナーが死亡してしまった場合には、事前に何ら対策をとっていなかったとすると後継者以外の人に株式を取得させざるを得ない状況にもなってしまいかねません。
また、従業員や取引先関係者などに株式を所有してもらっている場合は、その方の相続が生じることで、
経営者一族のコントロールできない部分で株式分散のリスクを抱えることになります。
このような場合には相続により株式の所有者が多人数になることで複雑になりすぎ、権利者不明の株式が出てきたり、
株式の共有者が多数になり議決権の行使が出来なくなってくることも考えられます。
このような状況になりますと、事業承継の手段としてM&Aという選択肢もとることが出来なくなってしまう可能性があります。
といいますのも、会社の機能に魅力を感じた買い手側の会社は、買収の際にはもちろんすべての株式を買い取ることを条件としてくるでしょう。
その際に所有者不明の株式があったり、株式の共有者が複雑すぎる場合は取引のテーブルから降りてしまいかねません。
そういったことを避けるためにも、株式の分散はなるべく避けるべきです。
どうしても分散させる必要がある場合は、種類株式の制度を利用してリスクヘッジをしておく必要があります。
株式の集中
上記のように株式が分散することはリスクをはらんでいるわけですが、逆に株式を集中させればそれでよいのか?というと、
株式をオーナー一人に集中させることにもリスクはあります。
一人の株主に株式を集中させてしまった場合、オーナーが認知症になってしまった場合、
株式の議決権を行使できるものが全くいなくなってしまい、代表取締役の交代はもちろん、決算の承認もすることができない為、会社の運営は何一つできないという事態に陥ってしまいます。
認知症にならなくとも、遺言を書いていない状態であれば、オーナーが死亡した場合には株式は相続人の共有となってしまい、スムーズに遺産分割が整わなければ議決権の行使は相続人全員の合意で行う必要が出てまいります。
このような事態を回避するには、種類株式や属人的株式の活用をする方法が有効です。
上記のように株式は分散することも集中することもリスクがあるのであり、その会社の状況(家族関係や取引先との関係など)を加味し、その会社にあった株主構成を考えていく必要があると考えます。
会社の事業を相続する際の注意点とは
株式の相続に潜むリスク
中小企業によくある傾向として、会社の経営に心血を注ぐあまり、個人財産のほとんどが自社株式となっているケースがあります。
「すべての財産を長男に相続させる」という旨の遺言をすること自体は出来ます。
その一方で一切相続することができなかった相続人には、遺留分という権利があることから遺留分減殺請求がされると、その相続人の持つ遺留分割合は財産を渡さざるを得ません。
そういった中で、財産構成の自社株割合が高ければ高いほど自社株が遺留分減殺によって分散してしまうリスクがあるのです。
このような事態を避けるためには、早い段階で後継者を決定、育成し、税金対策も含めて自社株の承継を円滑にできるよう、生前贈与などを使って少しずつ自社株を譲渡していくという事も考えるべきです。
ただし、あまりに早い段階でそれをしてしまうと後継者との折り合いが合わなくなることもあり得ます。
結局後継者が事業を引き継がなかったといった場合には、会社に関与しない株主が出現してしまうという事態も考えられます。
一度譲渡した自社株を買い戻すとなると、相当な資金と税金がかかることが予想されますので、後継者の育成は早いほうが良いですが株式の移転は、ある程度後継者の心構えが固まってからにすべきでしょう。
個人事業、要資格事業の相続のリスク
個人事業の場合、個人の財産の相続と事業の承継がイコールであるという状況です。
そして、資格を必要とする事業(士業や医師等)の承継となると、資格を有していなければ、
承継が出来ないという特殊な状況もあります。
子供がまだ国家試験に合格していない場合などにはどうすべきかという事も考えなければなりません。
そういった場合の対策として、個人事業であれば法人化してしまう事も対策としては有効かもしれません。
しかし、法人化には法人化の問題点もないわけではありません。
そういった場合に備えて、民事信託の活用なども選択肢の中に入ってくると考えます。
そもそも個人事業の相続は規模が小さいから個人事業のままにしている場合が多く、
その承継は非常に限られたリソースの中で遂行しなければならないケースがほとんどでしょうから、
難しい選択を迫られることが多いことは確かだと感じます。
民事信託によって株式を事前に信託
これまで書いたように、事業の承継や自社株の承継には考えなければならない点が非常にたくさんあります。
税金面でも頭を悩ませることが非常に多いでしょう。
認知症のことを考えると生前に次世代に株式を贈与や売買などで引き継いでしまう事が理想的でしょうが、贈与であれば贈与税の問題が、売買であれば購入資金の問題は付いて回ります。
そこで、認知症になる前に株式を信託しておくことが非常に有効であると考えます。
自社株を事前に後継者に信託しておくことによって、少なくとも認知症に関するリスクは回避することが出来ます。
尚且つ、信託によって株式を次世代に承継させる方法であれば贈与税は課税されることなく、買取費用も必要ではありません。
それに加え、後継者以外の相続人からの遺留分減殺請求を回避する為に生命保険を活用したり、生命保険活用のための金銭を信託しておけば尚良しといえます。
事業承継税制を活用すれば税金のことは考える必要がないという意見もあるかと思いますが、事業承継税制には様々な要件があります。
特に雇用維持の条項はこれからの時代足枷になることも考えられます。
技術革新により、事業自体にそこまでマンパワーが必要なくなる可能性は排除できません。
そうなると思っていなかった税金を払わなければならなくなる事態に陥ります。
そういった意味でも民事信託によって株式を承継することは非常に有意義だと言えます。
まとめ(リスクマネジメントについて)
事業を承継する場合、上でも説明したように様々なところにリスクが存在しています。
こういったリスクをいかに管理するかというのは非常に難しい判断になることが多いでしょう。
一般的にリスクマネジメントはリスクを特定識別し、そのリスクがどのような要因で引き起こされるのかを洗い出し、
特定したリスクを発生頻度や影響度でレベル分けし評価します。
レベル分けされたリスクに関しては以下のような形で対応をとることになります。
- リスクの低減
リスクに対して対策を講じ、発生可能性を低下させる。 - リスクの保有
リスク評価の結果特に対策をとるほどの影響がない、または対策に対するコストと効果が合わないと判断する。 - リスク回避
発生による影響が非常に大きいため、コストをかけてでも発生の要因を除去する。 - リスク転移
リスクが発生した際の損害そのものを他社に転移してしまう。(保険等)
相続や事業承継に際しても同じアプローチが有効だと思います。
絶対に避けなくてはならないリスクは相続においては「元気であった人の突然の死亡による損害」であり、
事業承継においては「突然の経営破綻」でしょう。
リスクマネジメントには100%という事はありませんので、完璧主義な考えをする方には、
そもそもその有用性を感じにくいという難点はあるのですが、何もしないことが最大のリスクを生じさせることに変わりはありません。
会社経営をしている以上、社員や取引先などの様々な関係者が関わっておられることが普通でしょう。
そのような状況下で、漫然と大きなリスクを放置することは非常に身勝手と思うのは私だけでしょうか?