未成年の相続に関する手続きの5つのポイント

相続の問題は遺言である程度回避できる
日本では、遺言を残すというのが未だに一般的ではありません。
確かに、自分の死後に備えて遺言を書くというのは、何か不吉な感じがするというのはよくわかりますし、
なるべく考えたくないといのも頷けます。
しかし、昨今では、終活という言葉が各メディアで使われ、
自分の最期をいかに幕引きすべきかという事について、だんだんと考える人が、
増えているようにも感じます。
今回は遺言を書くことの効能の一つとして、未成年者の相続の問題を取り上げます。
この記事の目次
未成年の相続には養子縁組の活用による相続税対策を
通常、相続が発生した場合に相続人となるのは、子がいる場合は子と配偶者です。
という事は、親が若くして死亡した場合くらいしか未成年者が相続人になることはないように
思うかもしれません。
しかし、実際には未成年者が相続人になるのは、その他にもあります。
それは、未成年者が祖父母の養子になっている場合です。
現在の相続税法では、相続時に相続人の数が、多ければ多いほど相続税は安くなります。
故に、相続税の対策として、孫を自分の養子としてしまう事で、
相続税の対策をしている方が相当数おられます。
そういった場合には、孫も相続人となるわけです。
ただし、税法上の制限として、実子がいる場合は養子は一人まで、
実子がいない場合は養子は二人までしか税法上の軽減措置の対象になりません。
なお、節税目的の養子縁組については現在、裁判にてその有効性が争われています。
第二審では無効と判断され、節税目的の養子縁組の効力は否定されましたが、
最高裁の判決が2017年1月に出る見込みで、現状では二審の判断を覆し、
有効とされる見込みであるとされています。
未成年の相続での未成年者の意思決定
通常、未成年者が小遣いの範囲を超えるような売買契約等の契約行為(バイクを買うなど)をする場合は、
親権者の同意が必要になります。
遺産分割協議も契約等の法律行為の一種ですから、相続人の中に未成年者がいる場合、
遺産分割協議をするにしても、未成年者は自分の意思を自分で決定することは出来ません。
では、この遺産分割協議において親が同意をする事が出来るか?という事が問題になりますが、
親権者も遺産分割協議の当事者となっている場合は、子と親権者の利益が相反する事となります。
親権者が子供の利益を無視して、自分の利益を優先する可能性があるわけです。
そういった場合にも親権者に、未成年の意思決定について、代理させる事は公平ではありません。
未成年の相続では相続時の遺産分割には特別代理人が必要
未成年の相続における特別代理人
上記のように、親権者と未成年の利益が相反する場合には、親権者ではなく、
裁判所が選んだ特別代理人という者が未成年の代わりに遺産分割協議に加わる事になります。
未成年の相続における特別代理人の権限
特別代理人は、未成年に代わり遺産分割協議に参加するわけですが、
どのように遺産を分割するかを自由に決定することは出来ません。
厳密には、裁判所に特別代理人の選任を申し立てる際に、
遺産分割内容の原案を提出し、その内容に沿った決定を未成年の代わりにするだけです。
未成年の相続における特別代理人選任手続き
裁判所に遺産分割協議書の原案を提出し、その他もろもろの書類を添付した上で、
特別代理人の選任を申し立てると、裁判所の混み具合にもよりますが、
2週間から1か月の期間を要します。
売却の相手が決まっており、遺産分割手続きを急ぐような事情がある場合、
そのことによって売却の機会を失いかねません。
未成年の相続における特別代理人には誰がなるのか
特別代理人になるための要件などは特にありません。
申立時に候補者を立てて申し立てる事になりますが、親戚や知り合いでも構いません。
また、親戚や知り合いに知られたくない場合は、専門家(弁護士、司法書士など)に依頼するする事も可能です。
未成年の相続における未成年者の相続分
未成年の相続人の法定相続分
相続時の遺産分割協議において、どのような分割方法にするかは、原則は自由です。
しかし、特別代理人の申し立てをする際に、裁判所に提出する遺産分割協議書の原案は、
未成年者の利益保護を第一義としますから、自由に決めて良いという事にはなりません。
原則としては、どのような財産を未成年者に承継させるかは制限はありませんが、
相続財産全体に対する、未成年者の法定相続分は、確保してあげる必要があります。
その他、ケースバイケースで、未成年者の取り分を限りなく少なくすることは出来る事もありますが、
原則として法定相続分を取得させてあげる必要がある事には注意が必要です。
未成年の相続における不動産の相続
相続財産中の不動産の売却をしたい場合は、遺産分割協議案で、
不動産以外の財産を未成年に取得させ、不動産を親権者名義にすれば、
その後の売却手続きはスムーズです。
未成年者の名義にしてしまうと、親権者の同意なが必要であるなどから、買主も躊躇するかもしれません。
未成年の相続前に遺言を書いていれば・・・
未成年の相続における遺言作成の手続き面
このように、相続人の中に未成年がいる場合は、手続きは煩雑になり、尚且つ、時間もかかります。
亡くなられた方の預金口座の解約一つのためであろうが、特別代理人の選任というプロセスは必要になってきます。
しかし、生前に遺言を書き、財産の分割法を指定していれば、手続きは大幅に簡単になります。
未成年者にはなにも相続させない内容の遺言を作成するだけで解決します。
ただし、その場合でも、未成年の側から遺留分を主張することは出来ます。
よって、そういった遺言を書く場合は事前の家族間のコンセンサスが取れていることが前提となるでしょう。
未成年の相続における費用面
費用面では、未成年者の人数にもよりますが、遺言の作成と、特別代理人の選任手続きでは、
未成年一人なら特別代理人の選任を申し立てる場の方が多少安く上がる気はしますが、
その後の手続きの手間や、未成年者に財産を承継させないといけなくなるデメリットを考えると、
遺言を書いて置くほうが賢い選択のように思います。
未成年の相続についてのまとめ
相続財産を配偶者ではなく、未成年の子に承継させ必要が出てくるため、
配偶者控除を使うことが出来なくなる場合があるなど、弊害も大きいです。
もちろん、その為に遺言を書いたとしても、未成年者が成人するまで相続が発生しなければ無駄になると考える人もおられるかもしれません。
しかし、遺言を書かなかったことで困るのは残された家族です。
後の事に煩わされずに人生を謳歌する為にも、一度考えてみてはいかがでしょうか?